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地中熱利用ヒートポンプシステムと総合エンジニアリング力
 
地中熱利用ヒートポンプシステムと総合エンジニアリング力
北海道大学大学院工学研究院教授
長野 克則さん

北海道大学大学院工学研究院教授 長野 克則さま プロフィール

 

 長野教授は、地中熱利用システムの分野では世界をリードする研究者の一人です。

 地中熱源ヒートポンプシステムと種々の再生可能エネルギー、蓄熱、調湿技術を組み合わせたローエネルギーで快適な住宅の計画・建設、大規模地域熱供給への適用を検討され、地中熱対応小型ヒートポンプユニットの開発を成功させています。

 平成20年度より、稚内層珪質頁岩デシカント空調を用いた住宅向けの高効率冷房房・給湯ヒートポンプシステムの研究開発に着手され、本年の6月、「少水量対応高効率地中熱利用ヒートポンプシステムの開発」にて、産学官連携功労者表彰における環境大臣賞を受賞されました。


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長野さまメッセージ

 

 先週、中国においてに日中のヒートポンプ技術の交流会に参加する機会を得ました。中国における2010年冷凍年度(2009年8月~2010年7月)のエアコンの出荷台数は年間3,600万台を突破したとのことです。日本の販売台数は年間おおよそ700万台ということですから、そのすさまじさがわかります。ただし、そのほとんどはノンインバーター機、すなわち昔ながらのOn-Off制御機で効率も品質も高いものではありませんが、兎に角安いエアコンでの冷房が求められているということです。国の省エネルギー基準の制定の動きに合わせて都市部においては、今後の購買力の向上とともに日本のエアコンの競争力の源であるインバーター技術や圧縮機や熱交換器などの高効率化技術を組み合わせた高効率エアコンに向かうのでしょうが、全世界的に見れば、今しばらくはこのような状況は続くと予想されます。

 

 エアコンの例として見るまでもなく、中国やインドといった日本の10倍以上もの人口を抱える国々がエネルギーや資源を飲み込んであらゆる分野で急速に発展しています。上海万博では、中国における家庭の居間のしつらえを再現して1988年から現在まで20年間にわたる変遷を示した展示がありました。その様子は、日本の1960年代からの50年間の変化を、わずか20年間で達成したような印象でした。2.5倍のスピードです。

 日本はバルブ経済以降、1989年からの20年間、GDPの伸びはわずか24%です。この10年では7%しか増えていません。さらに、建設投資額を見ると増えているどころか、この20年間で半減している現実があります。この現状をどのようにとらえれば良いのでしょうか。私は、日本がある意味においては、十分に発展した国、成熟した国になったということよりは、我々日本人が、「もう十分である」という気持ちにある方が大きいと思います。日本の成長と世界の成長。全く違うようですが、辿ってきた経路は同じです。そもそも、資源と環境は有限です。これを無視した無限の成長はあり得ません。すなわち「資源制約」と「環境容量」を今一度真剣に意識することが、エンジニアとして、そして地球人として最も重要なことと考えます。

 

 さて、民生部門においてエネルギーの削減を考えるとき、まずは熱源機器の高効率化が重要ですが、この場合、現在の化石燃料の燃焼に比べて圧倒的な効率改善が必要です。無論、ライフサイクルCO2が最小となるシステムを選択しなければいけませんが、現実的で最も効果的なのは高効率ヒートポンプシステムの導入と考えます。ただし、ヒートポンプシステムの効率を最大限引き出すためには、システムの計画・設計能力、竣工後のコミッショニングによる制御のチューニングといった運用管理へのフィードバックが必要不可欠です。具体的には、ヒートポンプに最適な熱源やその設備を用意すること、機器特性と建物熱負荷、蓄熱と二次側設備などです。加えて、熱源の切り替えタイミング、蓄熱運用と追い掛け運転、排熱回収などの制御要素も重要です。

 

 熱源の一つとして地中熱利用もヒートポンプシステムの効率を高めるために非常に重要なことと考えています。地中熱利用は再生可能エネルギー利用の観点に加えて、大規模システムでは季節間蓄熱の効果も期待でき、大きな効率上昇がもたらされます。さらには、地上部の蓄熱槽と同じように昼夜間の短期蓄熱にも利用できるため、新たな投資なくしての効率改善やランニングコストの低減にも寄与できます。一方、地下水流れが豊富な場合には、地下水の直接熱利用や間接熱利用により、圧倒的な省エネルギーが図れます。

 地中熱利用は欧米が先進地でしたが、今では中国が最大の利用国になりました。中国ではスタジアムや大規模ショッピングセンターに1,000本以上の地中熱交換器をもつ大規模地中熱ヒートポンプシステムが次々と建設されています。メガ・ソーラーではなく、「メガ・地中熱」の出現です。上海万博会場ではメイン通りの歩道橋の基礎杭6,000本を使用した地中熱利用ヒートポンプシステムが導入されています。これらの大規模システムでは冷房による地中への放熱過多を防止するために冷却塔が必要不可欠ですが、その運用管理の方法は、年間効率と持続的運用の観点といった、長期的予測からなされなければいけません。しかし、欧州や中国の大規模施設では、まだまだなかなかうまく運用されていないのが実情のようです。

 日本が地中熱利用を含めたヒートポンプ利用で世界の省エネルギーの最先端を走り、市場を確保しながら地球環境に貢献するためには、超高効率ヒートポンプの開発と併せて、それを生かし切る、システムの計画・設計、施工、運用管理、チューニングといった総合エンジニアリング力にあるといえます。貴社の総合エンジニアリング力に大きく期待するところです。

 

◆ご参考◆

ワールドビジネスサテライト 「地中の熱で都市を冷やせ」

 http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/highlight/o1_184.html


投稿 : 北海道大学大学院工学研究院教授 長野 克則さん
2010/11/01 08:11:56